救命の基本を3か月間で教え込む人を育てることの大切さ

DMATの隊員でもあり、救急看護認定看護師でもある兼本さん。後輩看護師たちも先輩の後に続こうと、懸命に研鑚を重ねている。
――――研修医の先生を受け入れる際に心がけていることはありますか?
三戸

初期研修では救急科で3か月間学んでもらいますが、心がけているのは、その期間で患者さんの「『助けて』を助けられる医師」にすることですかね。さまざまな職種と協働し、一緒に成長できる仲間を増やせる社会人としての人間力を育てることも大事だと思っています。

兼本

私は倫理観と道徳感を大事にしていて、人としての道徳や患者さんを優先する優しさ、命に向き合う覚悟などを持ち、それを守りながら患者さんに接するよう心がけています。患者さんやそのご家族は医師や看護師を選べません。「もし自分の家族だったらどんな医療や看護を受けたいかな」と常に考え、患者さんや家族に求められる最善の医療が提供できるよう、看護師の視点から研修医の先生方と一緒にサポートしています。

三戸

「自分の家族だったら…」という視点はずっと大事にしてほしいよね。

兼本

はい。もちろん、基本は救命することですけど、救命に関わる知識や技術の部分と、患者さんやそのご家族に寄り添えるような看護を提供していく上で、気持ちに配慮したサポートを行って、研修医の先生方にも伝えられたらと思っています。

宮城

僕はレントゲンなどの画像で情報を提供する時に、研修医の先生が求める患部の情報を“ここだよ”とわかりやすく見せてあげることを心がけています。撮影の指示の出し方が不慣れな研修医の先生もいるので、それをアドバイスすることもありますね。

三戸

例えば、レントゲンを撮りたいのは肩なのか、上腕なのか、とかですよね。

宮城

はい。部位によっては撮り方が特殊になるため、それを理解してもらって「これなら1枚で全体が撮れます。こっちなら2枚に分かれます」って伝えます。やっぱり痛いところを何枚も撮ったら患者さんも辛いです。だから負担をできるだけ減らして撮影することを心がけています。

兼本

研修医の先生はレントゲンの指示を出すだけじゃなくて、画像を見慣れているプロでもある放射線技師さんにいろいろ相談してますよね。

宮城

そうですね。上の先生方に聞く前に、まずは僕たちに聞いたりしますね。そこは研修医の先生方との大事なコミュニケーションでもあるので、気軽に話すようにしています。

森元

僕が研修医の先生とドクターカーで出動する時は、例えば交通外傷だったら、「ちゃんとヘルメットをかぶって!現場に出るなら安全靴に履き替えて!自分の身は自分で守る準備をしないと!」と注意します。また、研修医の先生は病院外の救命現場での経験はないので、大体緊張して硬くなっています。「三戸先生の後ろについて行ってください」「今こうしてください」と誘導してあげています。院内の場合は、先生や看護師から指導されてへこんでいる研修医も多いので「大丈夫ですか?」と声をかけることもありますね。

――――前述の「朝のカンファレンス」は研修医の先生方や実習生などにもとても人気が高いそうですね。
兼本

研修医の先生方は「朝の勉強会」って呼んでいて、長く続いていますよね。

三戸

そう。2012年7月から始めたんだけどね。

宮城

えー?すごい!10年間も。

三戸

各科が輪番で救急当番をしていた体制から私が専属でERを担当することになり、「当直や初療を担当する研修医やERの看護師がしっかりしていれば、ちゃんと助けられるようになる」と考えて、「『私だったらこの患者さんをこう助けるかな』という感じで始めました。

森元

なるほど。そうだったんですね。

三戸

研修医の先生やERの看護師が直面した救急での困った経験や悩んだ症例を、次に似たような患者さんが来たときにどうすればいいかを話す感じです。例えば「この時にもうちょっと早く、もっとしっかり点滴をしてあげれば落ち着いたかもしれないね」「移動させる前に私だったら、こういう処置をしているかなぁ」とか、明日の当直でも対応できるように、いわゆる“すぐに使える知識と対応方法”を伝えるようにしています。うちの病院を卒業し、各科の指導医になって帰って来た先生たちも増えてきていますが、当たり前のように外傷でも内因性のショックでも、初期対応をしてくれるようになりました。10年続けてきたことは大きな意味があったと思っています。

森元

いつもすごく実践的ですよね。

三戸

当直で断らずに全部診て、ちゃんと助ける方法や手段を勉強してもらうことで、自信を持って初期対応・初期治療ができるように指導しているつもりです。どんな時でも命を救える医師であって欲しい。自分の家族が倒れた時に「あの先生がいたらよかったのに・・」とは思ってほしくない。一番大切な人、大事な人が倒れた時に最初に接する医療従事者として「ちゃんと助けられる医師」になって欲しい。朝のカンファレンスはその思いでずっと続けています。

兼本

すぐに役立つ内容を中心に話しているから、研修医だけでなく、病院実習にきている消防の救命士さんや臨床実習の学生たちにも人気なんだと思います。

三戸

もうひとつの効果というか狙いとして、この朝のカンファレンスでは研修医の先生に発表をしてもらっています。人は教えられた(インプットした)知識はすぐ忘れてしまいますが、自分が話した知識や話すために勉強した内容は忘れないので、ここではアウトプットすることを大事にしています。うちを卒業した研修医の先生たちに聞いてみても、「研修中は大変だと思っていたけど、卒業して、毎朝発表するために勉強していたこと、みんなの前で発表したことがとてもよかった」と言われます。

森元

僕ら救命士も参加をしていて、たまに発表することもあります。時々研修医の先生方から質問されてドキドキしますけど…(笑)。いろんな立場から患者さんを診ることができて、勉強になりますね。

兼本

私たちが新人の頃は朝の勉強会はなかったですね。

宮城

そうだね。今の研修医の先生たちは恵まれているよね。

朝の勉強会
2012年から始まった救急科の「朝の勉強会」。研修医が経験した症例を振り返り、指導医からフィードバックをもらう大事な勉強の場にもなっている。
三戸

救急研修の他の特徴としては、朝のカンファレンス以外にも3 か月に一度、院内の職員に加え、近隣の救急、消防隊、病院関係者など、救命に熱い100 人を超えるような人達の集まる「救急症例検討会」で発表をしてもらっています。 そこで聞く人を引き付けるような伝わるスライドを作ること、プレゼンテーションをすることは、今後の長い医師人生にとって、とても貴重な経験だと思っています。

森元

これもインプットではなく、アウトプットを大事にした研修なんですね。

兼本

こうした勉強会やシミュレーションを通して、チームで協働して救命を行う救急の仕事について経験を重ね、実際の現場で連携して活動するうちに、研修医の先生方も他の職種との連携の大切さをわかってくれるようになるのが、私たちER看護師もうれしいです。

救急症例検討会
院内外から100人以上が参加する「救急症例検討会」。近隣の救急や消防隊と過去の症例を検討する。協働で地域の医療を守るために大事な学びの場。

――――コロナの影響で病院実習ができない病院も多かったとお聞きしていますが、ハートライフ病院はどうしていたんでしょうか?

三戸

ERでは病院実習も全部引き受けています。
コロナと闘うために実習を断ってしまえば、学生たちが実習を通して理想の医師像や研修先を選ぶ機会を奪うことになります。そうすると来年、再来年、その先の未来、希望が育っていきません。今、目の前で起きていることだけじゃなくてその先のことを考え、学生たちや研修医の先生たちの実習や教育は、断ったり手を抜いたりしてはいけないところだと思います。

宮城

先生は患者さんだけでなく、学生たちの受け入れも断らないんですね。

森元

確かに!すごいですよね。消防の救命士さんの生涯教育(実習)も引き受け続けてくれてありがたいです。

三戸

うちのERでは「来ていいですよ」とずっと言い続けています。それはコロナであろうとなかろうと、学生たちが病院や救急を見て興味を持ち、当たり前の救命を当たり前にできる救急の姿を見せないといけない。そうでないと目の前の人を助けたいとか、ちゃんとした医師・医療従事者に育たないと思うんです。

――――医療界の未来の人材を育てるために、地道に種撒きをされているんですね。

三戸

そうです、ずっとね。ただ、なかなかスタッフが増えない気がするんだけど…(笑)

宮城

先生、そんなことないですよ (笑)。

三戸

研修医の先生を軸としたERではありますが、重症患者・救急搬送患者さんでは、搬送前から指導医が一緒に診療、治療を行なっています。患者さんがわざわざハートライフ病院を選んで受診をしてくれている、救急隊が選んで搬送してくれているのだから、ちょっとでも検査や治療に遅れが出そうだなと思ったら、口を挟んだり手を出すことで、患者さんにとって、治療の質が担保されるようにしています。

森元

救急隊の方たちもハートライフ病院に搬送すれば助かると思ってくれています。

三戸

そう。だからこそ病院到着後の治療の遅延(Hospital Delay)は絶対にあってはいけない。研修医の先生たちには「検査はどうする?治療はどうする?」と時間を気にかけさせながらの指導をしています。ERでの研修中に時間を削るトレーニングをしておくことで、落ち着いている当直などでは余裕を持って対応できるようになっていきます。

兼本

先生の見守りがあるうちに訓練しておかないと、ですよね。

――――ハートライフ病院では、研修医の先生もドクターカーに同乗して急患の対応などを学んでいるとのこと。同乗することで変わる意識とは?

三戸

ドクターカーで出動して現場で活動する時間はすごく短いんです。傷病者が一人なら現場活動は2~3分です。その短い時間の中で重症度、緊急度を判断して必要な指示を出し、処置をします。現場で接触してから病院に搬送してくるまでは8 分程度。研修医の先生は、こうした緊迫した現場を、攻めの医療の現場を経験することで、救急搬送された患者さんへの初期診療・判断にかかる時間も格段に短く、効率的になります。
例えば「糖尿病がある人の意識障害です」という短い情報からでも、たくさんの病態を推測して最悪の事態に備える「ちゃんと待つ」ことができるようになります。
スタッフの少ない当直や院内急変時など、似たような状況が起きても、短時間で判断や初期治療ができるように成長していきます。

兼本

救える命も増えますよね。

三戸

そう。「病院までたどりついた患者さんは絶対に救う」という医療ができるんじゃないかと思います。ホントの救急の現場で、どうするか判断をするのはパッと見て一瞬なんですよね。

森元

病院前の現場はいつもそうですよね。
また、現場の救急隊の活動の慌ただしさや、ご家族や近隣住民の状況が見えると、そこで対応している救命士さんたちの大変さや大切さがわかって、優しくなりますよね。

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